出品作家紹介 山本 哲 氏（漆芸）
螺鈿の魅力にとりつかれて約40年あまり。山本氏の作品は話題性に事欠かない。虹色にきらめく棗（なつめ）、二月堂から望む大和の風景や、打ち上げ花火の街を描いた漆箱など、ひたすら螺鈿（らでん）の可能性を追求してきた。その作域は、伝統工芸としての螺鈿の領域をすでに超えている。
「正倉院に代表される漆器の名品はもちろん素晴らしい。しかし自分が作るものは、常に現代人の目に訴えるものでありたい。少なくとも現代のわたしたちは西洋近代芸術をはじめ、以前にはなかった別の芸術体験を経た目をもっている。だから当然漆器の世界にも新しい図柄や色彩があっていいはず」
だからといって、螺鈿の伝統を軽んじているわけではない。正倉院以降積み重ねられた螺鈿の技法、特に近年は鎌倉時代の切り透かしの技法を用いて、現代の螺鈿表現を追求している。また、耀貝と呼ばれるメキシコアワビ貝の質感を生かした表現にも魅せられている。これからは、李朝螺鈿の味わいのあるものや、根来の朱を生かした造形的な作品にも手を伸ばしたいと意欲を見せている。